読書コラム

シロクマがやってきた!

翻訳家の杉本詠美さんからお手紙をいただきました。

*

  佳子さん、こんにちは。『シロクマが家にやってきた!』読んでくださったんですね。

佳子さんは bear hug という言葉、ご存じかと思います。この本では「クマさんだっこ」と訳していますが、ぎゅう~っと思いっきり抱きしめること。動物の名前がついているだけに、よく英語の絵本のモチーフにもなっていますね。ハグのなかでも特にあったかくて、愛情にあふれてて、気持ちよくって、安心できる。しかも、それがシロクマのハグだとしたら……!

ほんとは猛獣なのに、シロクマはなんとなく愛嬌があって、気持ちをほっこりさせる動物です。この物語に登場するシロクマ――ミスターPも、そんな魔法の力を持っています。ミスターPがそこにいてくれるだけで、みんなの心がほぐれ、ポジティブな変化が起こる。このイラストの表情も、いい味が出てますよね~。

主人公のアーサーには発達障害と思われる弟がいます。アーサーは弟のためにがまん、がまんの毎日で、ついに不満が爆発。家出をしようとするところから物語は始まります。わたしは一人っ子なのでわかりませんが、弟妹のいるひとにはきっと覚えのある気持ちでしょうね。だけど、アーサーはけっして弟が嫌いなわけではなく、ほんとは優しくて、とてもいいお兄ちゃんです。アーサーの両親ももちろん、アーサーをないがしろにしているつもりはなくて、子どもたちを平等に育てたいという一心。リアムだって、ただうまく伝えられないだけで、お兄ちゃんのことが大好きなのです。でもやっぱり、こじれたり、すれ違ったりすることがある。相手が家族だからこそ、さびしさやいらだちを感じてしまうってこと、ありますよね。大人の読者の方は、この両親の姿に共感する部分もあるのではないでしょうか。

シロクマをいきなり学校に連れていっちゃう場面もおもしろいですよね。「え、いいの?」と思うことの連続です。自分たちとは異質な他者と出会ったとき、どうすればいいか。懐の広い大人のアドバイスで、子どもたちは、まず相手を知ろうとすること、思いやりをベースに考え、行動することを学びます。大人として、子どもの前でどんな態度をとるべきか、考えさせられますね。

ミスターPの物語は、本国で今年6月に第2弾が出る予定です。今度はヤングケアラーの女の子が主人公。これもステキなお話のようですよ。

 *
素敵な本です。子供さんだけでなく、お母さんにもぜひ読んでもらいたい一冊です。